掲載:machi-iro magazine #52

泉和子エッセイ島料理
ヨモギの天ぷらとモズクの天ぷら(料理、撮影、泉 和子)

食べるものほどストレートに心を伝えるものはありません。

 我が家でフツムチ(ヨモギ餅)を作る時の調理道具は、すり鉢とすりこ木。湯がいたニシヨモギの繊維や蒸かしたサツマイモをつぶすのにとても適しているからです。湯がいたヨモギをすり鉢に入れたら、すりこ木を右回りに丁寧に繊維をつぶします。食材にエネルギーを注ぐようなイメージをすることが大切。時間はかかりますが精一杯手をかけて作る、食材そのものの命を大切にする調理法だと思います。料理の下ごしらえなど、めんどうくさいと思う気持ちもあるかと思いますが、時には、丁寧に時間をかけて作ってみると何か気付きがあるものです。調理する時間が愛おしく思えてきて、丁寧に時間をかけて作った料理が宝ものになるでしょう。

 ナガシ(梅雨)の季節になりました。梅雨の晴れ間に、時季に芽吹いたヨモギの新芽を摘んで天ぷらを作りましょう。春の植物の苦みを食べ、やがて来る日照りの夏に負けない身体を作りましょう。香りの強いヨモギは邪気を祓ってくれる植物で、年中行事にも使われます。サンガツサンチ(3月3日)は女の子の節句。フツムチ(ヨモギ餅)を作って先祖に供え、健やかな成長を願います。ゴガツゴンチ(5月5日)は男の子の節句。菖蒲とヨモギを軒先に下げて厄を祓い、逞しい成長を願います。最近は、中国を経由して本土から入ってきた菖蒲湯に入る風習が奄美にも伝わり、香り豊かな菖蒲とヨモギ湯に入る家庭が見られるようになりました。邪気払いや無病息災など、香りの強い植物に託して祈る島の人々の心が伝わってきます。

 その季節が来ると食べたくなるものはありませんか。春から初夏になると、コサンダケ(ホテイチク)の味噌汁やタケノコご飯、ヒキ(スズメダイ)のから揚げ、白身魚と豆腐のつきあげ、ネギ怒田、秋には、茄子の肉味噌のはさみ揚げや米茄子の肉味噌のせ、風の強い冬にはあったかいトリンシル(鶏肉汁)や塩豚のウヮンホネヤセ(豚骨野菜)などが食べたくなります。奄美の山や海、自然からの恵みは、その時季にしか味わえません。みんなで分けて食べられるだけをいただきましょう。

 あの日、あの時、忘れられない味があります。故郷を離れてもどこか懐かしく、恋しいのが奄美料理。奄美では手数をかけて、時間をかけて作った料理のことをテアブラがのった料理と表現します。でも、忙しい日は時短メニューでどうぞ。休日の余暇は、地場産食材を使った常備菜を作るなど、シマの暮らしを楽しむことがなにより。先人たちが伝えてきた心とともに、奄美料理を伝えていきましょう。