〜くちびるに歌を 心に太陽を〜
掲載:machi-iro magazine #18
文:當田栄仁
撮影:惠 大造
大きく伸びをしたくなるような暖かな春霞に包まれた朝、年季の入った体育館には、初めて訪れたとは思えない懐かしい空気が充満していた。かわいく整列した体育座りの35名を前に、僕たちは歌いはじめた−
ここは、縁あってお呼ばれした住用町の東城小学校。陽光あふれる現在の学び舎から想像するのは難しいが、10月の豪雨災害では20名余りが校舎に閉じ込められ眠れぬ一夜を明かした学校だ。よく見れば裏手の山崩れはいまだ 痛々しく、この体育館も床上浸水したとのこと。子供たちの中にも、避難所での疲れた表情をテレビ画面で見かけた顔がある。
新作CDから「むるむる大好きベイスターズ」「竜宮城 へ行ったなら♪」。今回は完全生音の、作曲担当濱田と作詞担当當田の2名のみという最小編成。大家族で育った子が一人暮らしを始めたような心細さを感じつつ、子供たちの澄んだまなざしに励まされる。カントリー調の最新曲 「まーじんまーさん地産地消」からは手拍子が出始め、歌詞に出てくる島ユムタのクイズ大会が始まる頃にはすっかり打ち解けた雰囲気に包まれた。
この体育館によく合う「アカネの街」をはさんで、お待たせ「カンモーレ市場のうた」「島バスに乗って」へと続く。 総立ちで思い思いに身体を動かし、一緒に歌う子供たちに 「いいノリしてるぜ東城小!」と洋一郎兄がシャウトする。 当初、僕たちを島唄の唄者と思われていたご様子の校長先生も踊ってらっしゃる!
励まそうなどとおこがましい気持ちを隠し持ってステー ジに入ったのが恥ずかしい。思えば東城の子供たちは、災害直後からバレーボール大会で優勝するなどして周囲を驚 かせた、何とも逞しい子供たちなのだ。ただ、僕たちの無骨な手で紡ぎ上げてきた歌が、今日もお互いの心と心にかかる橋になれたのだとすれば、これ以上の幸せはない。
堅物と評されるドイツ人は「くちびるに歌を 心に太陽 を」と詠った。まして、僕らの身体には、歌を愛し、歌と共に生きてきた島人の血が流れているんだ。
島の子供たちには何より笑顔が似合う。これからも歌い続けたい。そう思った。
その日、お昼のテレビニュースが「春一番」を報じた。