奄美探訪 用海岸 Machiiro 記事写真 9

掲載:machi-iro magazine #16
文:當田栄仁
撮影:惠 大造

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裏があるから表がある。裏があるから深みが出る。裏って素敵じゃないですか。
観光ガイドにはない海岸線の魅力
一緒に探ってみましょう
いざ探訪−

パラグライダー体験

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突然ですが、奄美大島最北端の用岬上空からこんにちは。僕は今、生まれて初めてのパラグライダー飛行を体験しています。昨年七月二十二日、世紀の天体ショーを待つ人々が固唾を飲んで見つめた上空が、今この瞬間は僕だけのもの。

太平洋から吹き寄せる東風を全身で受け止めて静止していると、やがて何も考えられなくなる。鼻腔から脳天に潮の香りが突き抜ける。細胞の一つひとつが生き返るような。自分の身体が自分のものでなくなるような。

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宙に浮いた僕の足下には、コバルトブルーの海。あんなにも小さなトンパラ岩。はるか喜界島。視覚の端から端まで、丸みを帯びてつながる水平線。

やがて緩やかに反転すると、あやまる岬から用岬周辺の緑が鮮やかに目に飛びこんできます。全ての地形が興味深く愛おしく思える。

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続いて、海面近くを高速滑空。極上の爽快感。奄美大島有数と言われる砂浜の美しさも十分に楽しむことができました —

飛行に関するごく簡単なレクチャーを受けた数分後には、砂浜からテイクオフ。あっという間に上空200mに到達します。ほとんど揺れはなく、飛行体勢は驚くほど安定しています。経験豊かなパイロットとのタンデム飛行は窮屈さもなく、様々なリクエストに応えてくれるのも心強い限り。

団体型から個人型へ、施設型から体験型へと観光客のニーズが移り行く中、奄美大島においても様々なアクティビティが登場して人気を集めています。しかし、このパラグライダーによる空中遊覧こそ、最も新しく刺激的と言って間違いなさそうです。

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案内人のフットランチアマミ・榮さん(浦上壮年団)としては、現状九割は観光客(ほとんどが女性!)だが、島人にこそ島の新しい魅力を知って欲しいとのこと。島文化に精通した御仁も、野山を踏破した猛者も、海を知り尽くした磯者も。高をくくらず、まずは体験あれ!まだあなたが知らない奄美が空にはある。

着陸後も興奮がおさまらず、続くカメラマン氏のフライトの間中泳いでいました。海亀も遊ぶどこまでも透明な海中には、まぶしく陽が差し込み、上空で感じた身体と自然との不思議な一体感がずっと続きました。

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僕の生まれたこの島は、本当に美しい。この島を守るために僕ができることは何だろう?そう考えずにはいられない素晴らしい体験でした。

屋入峠

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※編集局注記:2020年現在、ランチャー内は立入禁止となっています。

そのまま飛んで飛んで — な訳ありませんが、続いて訪れたのは屋入峠にあるパラグライダーのランチャー台。太平洋と東シナ海の美しい海岸線を一望する、島内有数の絶景スポットです。

実は今夏、龍郷町内の道路では初めてアマミノクロウサギに出会ったのですが、現在の生息域が笠利町に及んでいないのも、この幅1キロ程のくびれ地を見れば納得できます。

赤尾木(ホーゲ)から山道で上る峠は、西に下ればじょうごの谷、尾根沿いを南に進めば戸口に至ります。徒歩の時代は北大島における交通の結節点として、多くの島人が荷を負って峠を行き交ったことでしょう。

今や、屋入峠〜戸口間は誰でも安心して運転できるドライブウェイ。太平洋上に浮かぶ喜界島をながめつの運転は爽快。赤尾木側の舗装が途切れてから、徒歩1分でランチャー台にたどり着きます。

ただし、「じょうご」は、島人の多くが今も畏怖の思いを忘れない伝説の地。くれぐれも道間違いのないように…

隠れ浜

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「あうん」は地元では有名な浜ですが、戸口集落在住の友人・勝さん親子に案内役をお願いして、特別に「隠れあうん」を教えていただきました。

戸口の子供たちは、ここでキャンプするのが大きな楽しみだったそうです。なるほど、自生のハマユウやアダンも美しい小さな浜には澄んだ小川が流れ込み、炊き出しにも不自由することがなさそう。何より洋上の喜界島が見事です。場所ですか?もちろん秘密です。隠れ浜ですから。

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戸口港横の墓所下から海岸線を旧田雲集落に向かって磯を歩くと、「白浜」にたどり着きます。浜の入口にある「ムチモレ岩」に、「ムチミショレ(餅を食べて下さい)」と唱えながら周辺のサンゴ石を投げます。白浜はかなり広い浜辺で、戸口では釣りやいざりの場として定番だそうです。

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勝さんからは他にも、戸口川について、結構タナガ(テナガエビ)がとれること、川遊びできるコモリがあること、少数ながらヤジ(リュウキュウアユ)が確認されていることなど教えていただきました。他にも、地元以外には知られていない、いくつもの隠れた魅力を持つ戸口集落。中々奥が深いです。

白浜の帰りには、ムチモレ岩に白砂をまくことになっており、その際にも唱えるクチがあるそうです。が、勝さん「忘れてんが」とのことで割愛。そのせいか帰りは台風余波の波に打たれ、ズブ濡れになってしまいました。

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隠れ浜

ちょっと聞きにくい話ですがと前置きして、「戸口野蛮」と言われること、戸口出身者が「ホーゲがど(赤尾木集落の方が)野蛮」と語ることについて聞いてみました。

「確かに気質は荒いかもね。戸口人の会話は他所の人にはケンカみたいに聞こえるらしいし」と最初は笑って答えていましたが、「ホーゲにだけは負けたくないち気持ちはワン(僕)でも持ってるよ」と語る際には、温厚な表情の目元がギラッと輝きました。

勝さんによれば、「運動でも勉強でもホーゲは抜きん出ているし見栄えもいい人ばかり。戸口はできもせんのに虫(負けん気)だけで立ち向かおうとする」んだとか。失礼ながら、ちょっと思い当たるなぁ。

今回の探訪でひとつ分かったこと。国道沿いの並びで見れば遠く離れた両集落がなぜライバル関係にあるのか?屋入峠の先は赤尾木。昔の道なら隣りジマで、恐らくその時代の意識が今も残っているのだ。

町内運動会の反省会では、勝ってなお反省するという赤尾木と負けても「いっちゃっか(まあいいよ)」と笑い飛ばす戸口。最近は若者の移住者が増えて、集落活動でも若手の活躍が目立つという理由のひとつは、「野蛮」と言われつつ、実は大らかで面倒見がいい戸口気質にあるとみた。

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太平洋沿岸「表」説

戸口から古見へ。旧田雲集落へ下る道は未舗装かつ急傾斜。雨天時にはスリップなど注意が必要ですし、車種も考えた方がいいでしょう。

勝さんにとっては懐かしの遠足道。戸口小学校から徒歩で下り、旧田雲集落を通過して崎原小学校へ。小規模校ながら卓球の強豪として有名な同校で、やはり卓球を通じて交流を深め帰ったものだとか。

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なんで、こんな空に近い場所に集落があるんだ? という当時の勝少年の疑問はごもっとも。山を背に海岸に向かって形を成す他のシマとは明らかに異なるロケーション。沿岸集落民が風水害から逃れてできたシマとも聞きますが、崎原漁港を含めた旧田雲集落の荒涼としたたたずまいを見ると、首肯したくなります。

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前々号の探訪で、古見地区について、フワガネク遺跡から南方交易の拠点として栄えた地であったことが明らかにりつつあるとご紹介しました。今回の取材地と、更に以前訪れた川内集落(住用)をつなげば、島の太平洋側一帯に活気があった時代が浮かび上がってきます。また、今回勝さんから、戸口川を上流に上るとガヤ集落にたどり着くという話も聞きました。現在の幹線道路の流れとは違うシマジマのつながりに興味は尽きません。

魅惑のオーシャンロード探訪。さあ次は、もっとディープに行きますよ。