奄美探訪 浜田太氏 インタビュー写真

写真家 浜田 太

金作原から奄美の自然全般まで、やはりこの方にお話を聞かなければ始まらない。

画像奄美探訪ロゴ

春ただ中の早朝。天候は晴れである。
原生林・金作原。なぜまちを抱く山並みの懐深くにその森は在る。
最近ことに思いが募る。地域の宝について、僕らはどれほどのことを知っているだろうか?
目指すは奄美群島国立公園のコアゾーン。
いざ探訪-

– kinsakubaru –

第二章 インタビュー

写真家 浜田 太

奄美在住の写真家・浜田太氏が、世界的な自然写真コンテスト「二○一七年度ネイチャーズベストフォトグラフィーアジアコンテスト(NBPA)」の動画部門で入賞を果たした。受賞したアマミノクロウサギの子育て映像は、米国ワシントンのスミソニアン国立自然史博物館で9月まで継続して放映されている。

「スミソニアン」と聞いてピンとこない方も、映画『ナイトミュージアム2』の舞台と聞いてイメージできるだろうか?浜田氏は、かの有名なアフリカ象に見守られながらNBPAの表彰を受けられた。自然写真の世界で頂点を極める正に快挙である。

氏は、観光ポスター『風になれ』で、金作原の魅力を島の内外に知らしめた火付け役としても知られる。金作原から奄美の自然全般まで、やはりこの方にお話を聞かなければ始まらない。以下、島の大先輩への敬愛の思いを込めて「太兄」で失礼します   

風になれ

− まずもって、この度の栄誉おめでとうございます。

奄美探訪 浜田太氏 インタビュー写真

太兄)ありがとう。今回の受賞は、奄美の自然が世界的な価値を持つというお墨付きを得たことにもなると思う。これまで支えてくれた皆さんへの感謝と達成感に浸ってます。

− 『風になれ』のインパクトはいまだに色あせることがありません。どういう経緯で金作原を舞台にされたのですか?

提供:株式会社エアポートTVネットワークジャパン ©浜田太

「風になれ」「光になれ」実はこのポスターは対の作品だ

太兄)九十一年に観光ポスターをリニューアルするコンペ(競技会)が開催されるにあたり、大手広告代理店に負けない企画を考え抜いた結果だった。

− 当時の奄美観光は他の離島と同じく、青い海と白い砂浜が魅力の全てであるかのように思われていましたね。

太兄)金作原はクロウサギが導いてくれた場所。世界的なカメラマンを目指したものの夢破れ島に帰り、必死になってつかみ取ったテーマがクロウサギだった。クロウサギを追って奄美の森に入り、霧にむせぶ金作原の美しさに息を飲んだ。地元の個人カメラマンが大手に対抗する武器はこれしかないと思ったよ。

− 本当は目にしているはずですが、地元の人間はヒカゲヘゴのような大きな植物の存在すら知らなかった。

太兄)ヒカゲヘゴの葉の高さにモデルを配置することで、見る人は初めてその大きさに気づく。森の妖精・ケンムンが、生命力を胸一杯吸い込んでいる情景をイメージした。残されたフィルムの本当に最後の一枚、その瞬間だけ霧が晴れて、モデルの表情が生き生きと映し出された。

− ポスターを前にお話を聞くと鳥肌が立ちます。人生のターニングポイントになった渾身の一枚ですね。

奄美探訪 浜田太氏 インタビュー写真

世界自然遺産について

− 僕らの現地取材の後に、世界自然遺産登録の延期が勧告されました。

「金作原 現地取材記事」あわせてお読みください

太兄)悲観はしていないよ。奄美の自然、特に生態系の価値は認められているんだから、後は、エリアの見直しと推薦書の表現の問題ではないかな。

− 久しぶりに金作原に行って、人の多さや雰囲気の変わりように驚きました。

太兄)金作原にはゲートが設けられたけど、スーパー林道への乗り入れについても規制が必要ではないかと思う。

− マングースの駆除と豪雨災害などの影響でクロウサギは増えているとも聞きますが?

太兄)確かに生息エリアは広がっているが、クロウサギを見に行こうとする人が増えて、姿を見ることが難しくもなってきている。

− ロードキルの恐れもありますし、クロウサギの姿を求める人間が彼らのエリアに足を踏み入れていかないかとも心配します。

太兄)大前提として、アマミノクロウサギの保護が最優先されるべきで、誰しもが自然の中で見れて当たり前という感覚はいかがなものか。住用町で計画されている世界自然遺産センター内での保護飼育や徳之島でやっている遠隔カメラでの観察などを考えるべきと思う。

− ノネコが生態系を脅かしているのではなく、人間のエリアまでクロウサギが広がってきているという意見もありますが。

太兄)僕は実際に山の中でノネコを見ている。山で繁殖している猫もいるし、集落から山に通う猫もいる。ノネコ対策が喫緊の課題であることは間違いない。

− ノネコの原因を作ったのも人間であり、自然にとって最大の脅威はやはり人間と思います。

太兄)ガイドのあり方も見直すべきと思う。このままでは自分で自分の首を絞めることになる。今回の延期は、商業利用に走りかけている関係者に、今一度根本から考え直すよう求める機会になったのではないか。

− 個人的には、地元の人間が現状を知らないし関心を持たないということに危機感を持っています。

奄美はダイヤモンド

− 太兄にとって「金作原」とはどういう存在ですか?

太兄)一言で言えば、奄美の自然のシンボル。一枚の写真からでも奄美の自然を語れる場。

− では奄美の自然とは?

太兄)自然に限らず奄美はダイヤモンドの原石だと思う。ただしダイヤモンドは磨かなければ輝かない。ダイヤモンドには様々なカットがあり、歴代の唄者が島唄を磨いてきたように、自分はクロウサギを通じて、一つのカットに磨きをかけられたかなと思う。

− 太兄の若かりし頃の夢は叶えられたということでしょうか?

太兄)今回のNBPAの情報を聞いて、自分のこれまでの仕事が世界にどこまで通用するのか、やはり問いたかった。

クロウサギとハブの共存など今も追いかけているテーマがある。新たに取り組んでいる事業分野は常に勉強が必要だし、夢が終わった訳じゃないよ。

− ふるさと奄美は太兄の誇りですか?

太兄)今だから言えることだけど、たった一度の短い人生、自分のふるさとを誇れずしてどうする?と思うよ。何しろダイヤモンドなんだから、人生をかけて皆んなで磨き上げようよ!

「磨き手も進歩し続けなければ駄目なんだよ」「人の仕事を自分のことのように語る奴を俺は認めない」。優しい笑顔の語り口とは対照的に、瞳は時に厳しい光を放つ。写真家・浜田太。単にプロと呼ぶ水準を超える世界の一流である。

『風になれ』以降、観光パンフレット『風は南から』、奄美の情熱情報誌『ホライゾン』等々、浜田太・百合子夫妻は、本土大手の寡占状態にあった奄美の出版界に風穴を開け、一時代を築いていく。やがて社会のIT化に直面すると、苦闘の末、スカイビジョンやネット配信へと五十歳を過ぎて新たな事業を展開していく。

厳しい状況に直面した時、夜の森で息を潜めてクロウサギを待った、長い孤独な時間を思い出すのだという。クロウサギが今の自分に導いてくれたという太兄にとって、クロウサギは人生の師、島で言う「カミサマ」なのかも知れない。

新しい事業は「まあ今でも楽じゃないけど…」と太兄がこぼした時だけ、事務所内でお仕事中の百合子夫人の方から「クスッ」と小さい笑い声が聞こえた。山野を駆け巡る「ヤチャ坊」を守護する「ウナリガミ」の存在も忘れてはならない。

マングースの蔓延で金作原から姿を消したクロウサギだが、やがて戻ってくるのではないか、と太兄は微笑み語る。世界自然遺産の森で、夜な夜な褐色の妖精が跳ね回る夢を見る。

奄美探訪 浜田太氏 インタビュー写真
筆者(左)と、浜田太氏(右)

この記事は平成30年7月発行のマチイロマガジン49号より転載しました。
掲載している情報は全て取材当時のものとなります。