マチイロマガジン奄美探訪 あまみエフエム ディ!ウェイヴ 写真

ワンキャの結いメディア

これほど奄美のことを知ることができて、地域に寄り添える仕事はない、とやりがいをもって働いている…

ささえる人の歌②

画像奄美探訪ロゴ

今や地域を代表するメディアであり、コミュニティFM日本一と評価される「奄美エフエム」は、間違いなく僕らの誇りだ。
島ユムタを誇らしく語り、「奄チュア」ミュージックシーンが盛り上がり、多くのイベントが島人の手で回る。ディ!の登場は、「奄美を変えた」と言っていい。
ディ!は、奄美を世界へ発信すると共に、島人同士をつないで新たな「結い」の渦を作り上げた。そして、常にそのド真ん中にいる。
今号で第五十号となる本誌、実は第一号でディ!を取り上げている。原点回帰ということで、今回は「奄美探訪」での「結いメディア」一日密着取材をお願いした。
いざ探訪 −

〜あまみエフエム ディ!ウェイヴ〜

放送事業

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ディ!の一日は、事務所の清掃から始まる。今日は一兵卒としてお世話になるので、僕もモップがけを。「職場ではせんがね〜」と若手にワヤクされるかい?

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朝の番組「スカンマーワイド」が終わると朝礼だ。どの職場もそうなのかも知れないが、スタッフの表情は外から見るのと全く違い、厳しい雰囲気に包まれる。緊張しながら自己紹介「よろしくお願いします!」。

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全員が業務報告をすると、続いてチームに分かれ、細かいミーティングに入る。我が「放送制作部」では、リスナーの要望に応えて「空の便海の便」の航空便案内に、JAL以外の運行状況もネットで調べて付け加えることになった。時間がない中で大変だ!

これが、国から電波法に基づく免許を受けている放送事業者としての緊張感、というものだろうか。全員が事務所内に流れる放送に常に耳を傾け、再放送の時間帯になるとパッとミーティングをして、再び各自の業務へと散る。

片時も放送が途切れることがないよう、取材をしては音源を編集、生放送の出演者には細かい連絡が必要だ。事務所内は、追い立てられるような切迫感と力強いチームワークのオーラに覆われている。

ご承知のようにディ!は、放送事業と並行して、奄美まつりをはじめ島内の大小様々なイベントを取り仕切っている。また、ディ!の強みである音楽の受発信交流基地ライブハウス『ASIVI』では、同じ建物の一階にあって、ほぼ毎晩、一流アーティストから地元ミュージシャンまで様々なライブイベントが展開されている。

これら全ての事前調整から後始末までをこなし、各パーソナリティーは結婚式などの司会業、麓代表は組織の顔として各種会合への出席が続く。

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仕事の合間、スタッフに色々とお話を聞く。運営事業部の福田さんは、Iターンでディ!勤務は約1年。会費の集金などを担当しているが、イベントとなれば全員体制。あっ!という間に時間が過ぎていくという。

それでも、これほど奄美のことを知ることができて、地域に寄り添える仕事はない、とやりがいをもって働いている。お客様からねぎらいの言葉をいただいたり、時には放送への助言をお受けしたり、訪れた事務所で「どぉ茶でも飲んでいかんね」と温かく迎えていただくこともあると目を輝かせる。

彼らのひたむきさ、一体なんなんだろう?何だか泣けてすらくる。

僕の方からは何の力にもなれてはいないのだが、一日同じ空間にいたことで、戦友のような親しみを感じてしまう。明日から、僕も生き方を変えていけそうな気がする。 

奄美の太陽

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「ディ!と言えばこの人!」と、パーソナリティーの渡陽子さん(以下は、親しみを込めて「陽子ちゃん」で)を思い浮かべる方も多いと思う。

愛らしい風貌と、突き抜けるような明るいキャラクター、一度聞いたら耳を離れない素朴な語り口など魅力満載、特に子供たちに大人気だ。道を歩いている時だけでなく、車を運転している時ですら次々と声をかけられ、必ず倍返しで相手を笑顔にする。

お昼の番組「ヒマバンミショシーナ」は、なぜ街商店街の末広市場内放送所から毎日放送されている。放送の段取りを教えてもらいながら、「特別コメンテーター」というご指名をいただいて、番組に参加する。

ここでも放送所をのぞく「陽子ファン」が引きも切らない。原稿やデータの整理をしながら、放送開始5分前になっても、観光客や顔見知りのオバちゃん達と話の輪が広がり続ける。僕だけがハラハラするが、放送開始直前にはキチンと準備が出来上がっていた。

驚いたのは、陽子ちゃんのマルチぶりだ。番組の進行はもちろん、音声の切り替えからタイムキープまで全て1人でこなしていく。ゲストの到着が遅れると聞くや、「とうださん少ししゃべりましょう」。寸劇で事業の紹介をすることになると、「次はこの設定でいきましょう」と打ち合わせなしの無茶ブリで盛り上げていく。

大変失礼ながら、彼女の天真爛漫な印象から、番組の制作やメカ関係は裏方に任せきりかな?と思っていた。とんでもない話だ。陽子ちゃんは、放送現場だけでなく、現場取材・音声編集・原稿制作まで全て手がけている。相当大変なはずだ。

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そんな陽子ちゃんは、営業志望でディ!に入社したものの、麓代表に見込まれてパーソナリティーの道を歩むことになった。意外なことに、始めた頃の4年間は「辞めたい」「営業に回りたい」と願う毎日だったという。

一つの契機になったのは、一人の少年との出会いだった。「島の宝奄美っ子」のコーナーで、何度たずねても全く話してくれなかった子が、自分が心を開くことで元気良くしゃべってくれた。その時、「あぁ自分は上手くならなくてもいいんだ。相手の話を引き出せればいいんだ」と思うことができた。

また以前、末広市場で毎週開催されていた「カンモーレ市場金曜市」での現場レポートが、現場で話題を拾う力の原点になったのだという。お客さんの中からピンと来る人をつかまえて話を聞き、面白いネタを広げていく。自分で話題を作るのではなく、相手の魅力を見つけていく。

「島の人はみんな面白い」と陽子ちゃんは言うが、「人は鏡」だ。彼女の魅力が島人のポテンシャルを引き出してくれる。話をするだけで、明るく前向きな気持ちになる。太陽みたいだ、と思う。まさに「名は体を表す」だ。

奄美を代表する人気者になっても、陽子ちゃんの営業志向や現場主義に変わりはないようだ。今後のプランとして、集落(シマ)の一つひとつに入り込んで話を聞く番組をやりたいのだという。それも、よく名前が挙がる有名なシマではなく、小さく地味な集落を回りたいと。それぞれのシマに、そこだけの食・風習・文化があり、人がいる。奄美は「深い島」。取材対象としての魅力に限界なんて感じない。

それから実は彼女、「朝まで生ラジオ」なる討論番組を構想しているという。奄美を取り巻く課題に対し、逃げずに真正面から議論し尽くすラジオ番組があってもいい。次から次に夢があふれて止まらないという陽子ちゃん、案外に硬派なのだ。 

オバ

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事務所に心配な報せが入った。

「英会話のOVA」「オバとジジネタ」でおなじみの、ディ!の「オバ」が怪我をして入院、既に退院したという。

これは様子を見に行かねば、と陽子ちゃんと共にオバの元へ向かうことに。ぜひ一度お会いしたかったという前出の福田さんも同行することになった。

国道から、やがて離合もできない海辺の細い道になる。それほどの時間が経った訳でもないのに、気がつけば昔のシマの風景の中を走っていた。

オバは横になっていた。「オバ、元気しもんにゃ!」陽子ちゃんが耳元で大きな声をかける。見慣れない僕の姿が、オバを驚かしてはいないか心配になる。

着替えて居間に入ってくるオバは、少しおぼつかない足取りに見える。しかし、あいさつ代わり?に「教育勅語」や昔の国語の教科書を大声で暗唱。怪我の経緯などうかがう内に、段々顔色が良くなってきた。

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自慢の畑を見せてくれる、ということで外に出る。大好物のハンダマ、ニンニク、ラッキョウ、さつま芋。自分で育てた野菜が食卓に上る。まだ思うように身体が動かないため、畑や家周りが荒れていること、自ら薪をくべて沸かしていた五右衛門風呂に入れないことが残念だそうだ。

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御年九十六歳。年長者として名言や教訓話をしてくれる訳ではない。むしろ、独り身の陽子ちゃんを下ネタ混じりで冷やかしたり、おどけたり踊ったり。本当に可愛らしいおばあちゃん。

裏山からの増水で、幾度となく被災してきたことすらも、笑い飛ばして話してくれる。ただ、昔のままのシマに一人住んで、昔どおりに暮らしている。故保忠蔵氏の言葉を借りれば「ヌシュマイラン(何もいらない)」暮らし。昔の島人の生き様を続ける背中は、小さくもたくましく見える。

そろそろお暇しましょうという段になった。ベランダに「ぺたん」と座ったオバが、少し寂しそうにトントンと隣を叩く。しばらく一緒にシマの気持ちいい風に吹かれた。

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僕らはタイムマシンに乗って、昔のシマを訪れたのだろうか?はたまた竜宮城か?

帰路は、つき物が取れたように肩が軽くなった。一方、失くしたものの大事さに気づいてしまったのか、今、思い出しても、胸の奥が少し苦しいのだ。

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歩きすと

この際、本稿(筆者)の「歩きすと」という冠について書いておきたい。

僕は長年、村上春樹の著作を愛読している「ハルキスト」の端くれ。仲間内の冷やかしを耳にした本誌代表が、文字って命名したペンネームということらしい。

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確かに、歩き回ってはアレコレ夢想している(ちょっと危ない?)男ではあるのだが、普段から「歩きすとでござい!」とやっている訳ではないので、どうかご理解をお願いしたい。

ただ毎年、夏の予感がする季節になると、村上春樹七九年のデビュー作『風の歌を聴け』を、つい手にとってしまう。それは僕にとって、その年初めてシャツの袖をまくり上げるよりも自然な行動だ。

物語は、主人公が夏休みに帰郷した海辺の街を、静かな風のように吹き抜けていく。限られた登場人物たちを結びつけるのが、地元ラジオ局のDJだ。彼は、OFF時には愚痴り悪態をつきながらも、放送では徹底して道化を演じる。主人公に「犬の漫才師」と不名誉な命名をされても。

物語の終盤、彼は、病身の少女から届いた手紙を読み上げ、初めて「僕は・君たちが・好きだ」と表明する。それはリスナーだけでなく、街への、人の営み全てへの愛情に思える。

僕は、中学生の頃、この街が嫌いだった。一日も早く島を出たくて、高校は鹿児島本土に進学した。でも、高校一年の夏、先輩の留守中にこの本を盗み読んで、無性に名瀬の街に帰りたくなった。そして、僕のふるさとの街に地元ラジオ局があったら、と胸が焦げるように思った。

ディ!の開局は、僕の夢が叶った瞬間でもあった。

ワンには夢がある

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スタジオに戻って、夕方のプログラム「ゆぶぃニングアワー」内の「夕方フレンド」に、本誌代表と共に出演させていただくことになった。本誌が第五十号にまで至ったことを、ご支援下さった皆様に御礼申し上げるためだ。

前をにらみつけ、わき目も振らずに突き進んできた訳ではなく、迷いながらトボトボ歩いてきた十余年だったように思う。探訪シリーズにおいても、様々な出会いがありました。全てに感謝です。ありがとうございました。

島人がもっと島を歩いて、島のこと知ろうよ。そんな単純な動機から始まった本企画は、この先、何らかのまとめをさせていただくことになるかも知れません。また、その節は、ご理解ご協力いただければ幸いです。

最後にお時間をいただき、麓代表にお話をうかがった。

島でも夢を見ることができる。島にいるから実現できる夢がある。そう言い続けて、みんなを引っ張って来た麓代表は現在、自身の夢の一つである「唄島プロジェクト」に取り組んでいる。

世界自然遺産登録とその先を見据え、僕らを守り、また僕らが育ててきた自然や文化を今一度見直すきっかけとなる一つの楽曲。島内外で活躍する十五組のアーティストによる「懐かしい未来へ」は、来る十月に発表される。

麓代表の仕事は、大切なものを守りながら、新しい奄美のデザインを試みているように見える。音楽から始まった彼の旅は、文化全般から教育へと広がろうとしている。若い世代に彼の背中を見せていること、それこそが最大の功績とも思える。

最後の最後、独身が多いスタッフを気づかい、今後は、彼らが家庭を持てるよう労働環境の改善にも努力していきたいと、麓代表ここだけは少々苦い表情だった。

僕らの島は「幸せの島」であるべきだ。多くの島人を喜ばせてきた若き夢追い人たちへ、個人的にも幸せが降り注ぐよう願っている。

想い

ディ!の電波は屋仁川のスタジオから発信されていると思っている方も多いのでは?実は同局のパンフレットにも掲載されているのだが、スタジオからはインターネット回線を通じて音信データが送られ、市内4ヶ所の送信所から電波が飛んでいる。

なぜまちエリアの送信塔は、クリーンセンター近くの山中に小ぶりながらも誇らしげにそそり立っている。案内してくれた陽子ちゃんは、「ここが放送の命なんです」と熱く語ってくれた。実際、停電などのためにやんごスタジオが機能不全に陥った場合、送信所まで車を走らせ、直接、マイクをつないで放送することもあるのだという。

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市内のどこでも受信できるようにしたいし、災害時の対応のためにもトンネル内で聴けるようにしたい。インフラ整備にかけても、陽子ちゃんのほとばしる情熱に圧倒される。

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今日一日感じた彼らの優しさやら情熱やら夢やらを、どういう言葉で表現すればいいだろうか?犬の漫才師が言う「好きだ」では足りないようだ…。

今日も奄美の山々から電波に乗って、島人への限りない「ウムイ」が、シャワーのように降り注いでいる。

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この記事は平成30年10月発行のマチイロマガジン50号より転載しました。
掲載している情報は全て取材当時のものとなります。

動画

取材風景を動画にまとめました。
麓代表へのインタビューも盛り込んでいますので、あわせてご覧ください。

取材先情報

あまみエフエム ディ!ウェイヴ!
http://www.npo-d.org