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山羊島

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~トム・ソーヤの砦~

長い梅雨が明けた。
目指すは少年の夏胸をときめかせたあの島
いざ探訪ー

 

結界

奄美探訪#15 ©まちいろ

山羊島前を回りビッキャ岩と名瀬湾が同時に目に飛び込んでくると、「帰ってきた」と安心するのは名瀬育ち共通の思いではないだろうか。

「山羊島」とはヤギが放牧されていたことから付いた名で僕らにも馴染み深いものだが、元々は「トーグラ(戸岩)」という。確かに、名瀬市街地に出入りするドアのようにも見える。

ビッキャ岩や旧道の地蔵など山羊島周辺にはケンムンがいて、数々の悪さをしたと伝えられる。山羊島より向こうは魑魅魍魎(ちみもうりょう)の外界(北部の方々お気を悪くなさらないで僕も龍郷出身です)として仕切り、内側を「名瀬」として意識した顕れと思う。

ところで、東京(江戸)は結界に守られた風水都市であるという話を聞いたことがあるだろうか。特に鬼門(北東)には神社仏閣等を結界として配しているのだとか。

人はカオス(混とん)の中で生きることはできない。縄張り意識のカタマリとも言える、優れて本能的な生き物だ。個人差はあるが,部屋の内装や身の回りの道具すら自分の居心地がいいように配置しなければ安心できない。資産と人の集積である街であればなおさらだ。

ん?なぜまちから見て、山羊島は鬼門の方角ではないのか?

 

一大レジャーランド

奄美探訪#15 ©まちいろ山羊島が地続きでなかった昔、佐賀出身の実業家によって公園化された後、昭和43年夏に「山羊島観光ホテル」が完成する。

9本柱の高倉、海亀が泳ぐ水槽、コインカート、海水プール。幼い僕らにとって山羊島は一大レジャーランドであり、時に島を訪れるVIPが宿泊する憧れのホテルでもあった。幼い頃は、日曜日のたびに「山羊島に行きたい」と親にせがんで泣いた。

ホテルがオープンし山羊島への畏敬の思いが薄れる頃、ケンムンも山羊も姿を消したが、時を同じくしてハグサンクヮンキャ(憎たらしい小僧共)が出没する。思えば連中はやりたい放題だった。橋からダイブするのは通過儀礼。裏手の浜から泳ぎ出せば立神が波間に浮き沈み、泳いでいるつもりで急流に流されていた。「ハブに注意」の看板を踏み割って山道をのし歩き、2B弾を鳴らした。

時代は変わる。子供たちは本当に大人しくお利口になり、社会は成熟とも言う沈滞期に入って久しい。山羊島のホテルも「奄美シーサイドホテル(※)」と名前を変え、名瀬湾の美しい景観の中、ラジウム健康風呂や宴会を楽しむ静かな行楽地として定着している。

 

reborn to be wild

ハグサンクヮンキャの残党とも言うべき連中は、いまだに山羊島周辺で釣り糸をたれ、カヌーを漕ぎ、波に乗っている。

僕とカメラマン氏も、島に着くなり記憶を辿りながら海へ山へ。やはり血が騒ぐのだ。草を分け岩を登り、気分はいつしかトムとハック。あの頃の記憶を呼び覚ます写真を撮りたいと駆けずり回った。「そこ危ないど」「大丈夫じゃが」。気がつけば、お互いのやり取りも乱暴な子供言葉になっている。

体力も果て汗シュッシュッのまま、飛び込みでホテル取材にうかがった。温かく迎えて下さったスタッフの皆さんに感謝。

取材を終えると、ひじの近くに血がにじんでいるのに気づき、思わずペロッとなめる。自分にそんな癖があったことを久しぶりに思い出す。同時に、海亀の水槽がなくなると聞いた日、飽きることなく海亀を見ていたことを思い出し、どうしようもなく切なくなった。

空は夕立前の泣き笑い。こんな大人の夏休みがあってもいい。

 

これはボックスのタイトルです。

Profile

歩きすと

奄美探訪#15 ©まちいろとうだひでひと 1967年、鹿児島県名瀬市(現、奄美市)生まれ。筑波大学卒。第2学群比較文化学類にて宗教学専攻。卒業論文は『奄美のユタ神のコスモロジー』。研究継続を志して帰郷した後は、在野としてアカデミックな枠を超えた奄美研究に没頭し、その一環として奄美探訪を書き綴っている。大学在学中には男声合唱団メンネルコールに所属し、パートリーダー兼ソリストを務める。音楽嗜好はクラシック系歌曲からハードロックまで全般。最近は、地域活性化バンド「濱田洋一郎と商工水産ズ」の一員として「音楽のまちづくり」活動に取組んでいる。
また、25歳から始めた相撲競技では、職域相撲での優勝経験。県民体育大会での監督経験、全日本実業団及び西日本実業団への出場など、スポーツマンの一面も。奄美市職員。

この記事は平成22年7月発行のマチイロマガジン第15号より転載しました。
※編集局注記:奄美シーサイドホテルは現在奄美山羊島ホテルへと建て替えられています。

 

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マチイロ編集局

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